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MPDスラスター(Magneto-Plasma-Dynamic thruster)


1. “MPDスラスタ”とは
 
MPDスラスタはMagneto-Plasma-Dynamic thrusterの略で、ローレンツ力( j × B )の力でプラズマを排気することが最大の特徴です。10cm程度のコンパクトな機体に数十kW~1MWを投入して数Nの推力を発生することが可能であり、月・火星無人物資輸送や太陽発電衛星の建設物資輸送を担う次世代大電力電気推進の本命候補と考えられています。

なお,MPDスラスタMPDアークジェット。又は電磁加速アークジェットと呼ばれることもありますが、近年ではPrinceton大学の提唱により、国際的にMPDスラスタの呼称を用いることが正式とされています。
 
 
2. MPDスラスタの問題点

実用化に向けたMPDスラスタの課題は以下のようなものです。

A. 推進効率の改善

MPDスラスタは同程度のサイズのイオンエンジンやホールスラスタに比べ,投入電力を推進剤の運動エネルギーに変換する効率(推進効率)が低いことが最大の問題点として挙げられます。
運動エネルギーに変換されなかった残りのエネルギーはジュール熱損失とります。
推進効率の具体的な値は、イオンエンジンで75%,ホールスラスタで60%程度が実現されているのに対して、MPDスラスタでは希ガスで20%程度にしかなりません。
しかしながら、希ガスは単原子分子であるため、理論解析や数値計算との比較が行い易いため、実験では希ガスのアルゴンガスが主に用いられています。

一方で、分子ガスを推進剤に用いるとそれなりに高い推進効率が得られることが知られています。
例えば、水素を使用すると50%程度の推進効率が得られます。
しかしながら水素ガスは宇宙空間での長期保存に適していなないため、実用的には水素を含む化合物を液化して貯蔵することが考えられます。
水素を含む化合物としてはアンモニア(NH3)やヒドラジン(N2H4)が有力な候補として挙げられます。
これらの推進剤では35%程度の推進効率が実証されているため、単原子分子を推進剤として用いた場合よりも推進効率が改善されます。
その他の推進剤としては、火星の大気から生成可能なメタン(CH4)も有効な性能を発揮することが分かっています。
加えて、二酸化炭素(CO2)をそのまま推進剤として用いることも考えられています。

B. 電極損耗の問題

MPDの定常作動における寿命は約1000時間程度と考えられています。
イオンエンジンを蛍光灯に例えるならば、MPDは白熱電球のようなものです。
陰極のタングステンが著しく損耗するため、陰極によって寿命が決定されてしまいます。
以前より、少しでも寿命の長い作動条件を探ることや、ロバストな電極材料の模索が行われてきました。
MPDの単純な構造を生かして、ロボット溶接のアーク電極のようんじ電極棒を自動で機上交換出来るようにする、と云うのも一つの打開策と成り得るでしょう。

C. 作動限界の問題

一般的にMPDスラスタは、放電電流を増すほど推進効率が良くなりますが、ある程度の電流(臨界作動電流Jcr)以上になると、電圧が激しく振動し、陽極の著しい損耗を招くことが知られています。
この現象はOnset(作動限界)と呼ばれています。
物理的にはプラズマ中の電荷担体が不足するために、陽極付近で真空アーク放電に近いスポット放電が起きていると考えられています。
この状態では電源に大きな負担がかかると同時に、スラスタ寿命も大きく縮むこととなるため、Jcr以上での作動はよくありません。
Jcrの値は推進剤流量の平方根に比例し、分子量に反比例することが経験的に知られていますが、電圧の振動や電極の損耗は突然起こるものではありません。
これらのOnsetは分子量が小さいガスになるほど、Jcrの値ははっきりしていません。
Jcrのの値を正確に知ること、及びJcrを少しでも回避する手法について考えることは実用的なMPDの作動条件を考える上で大きな課題です。
 
3. MPDスラスタの種別

MPDスラスタはその作動原理により、大きく4つの種類に分けられます。

 
同軸
 矩形 (2次元)
 自己誘起磁場
自己誘起磁場型同軸

自己誘起磁場型矩形
 外部印加磁場 外部磁場印加型同軸

 外部磁場印加型矩形


最も基本的な形態はAの同軸・自己誘起磁場型ですが、当研究室では全てのタイプに関わってきました。
以下、各タイプの違いについて説明します。なお、矩形型を2次元(2D)と呼ぶのは当研究室固有の慣習で、他ではこのような呼び方はしていません。

同軸型のメリットとしては、「プラズマの閉じ込めが容易」であることが挙げられます。また、陰極が高温に保たれる(3000度程度)ことによって十分な熱電子放出が期待できるため、全電流が中軸陰極に集まる構造は理想的であると考えられます。
(実は中軸陽極と円筒陰極を用いても加速方向は同じ!なのですが、熱電子放出の観点から陰極は中軸にあるべきといえます。)

同軸型のデメリットは、「推力の半径方向不均一性が大きい」ことです。自己誘起磁場は陰極からの距離 に反比例して小さくなってしまいますので、陰極・陽極間距離を大きく広げても、推力増にはそれほど貢献しません。理論的には陽極内径を ra 陰極直径を rc とすると、推力 T は ln(ra/rc) に比例して増大することが知られています。また、外周を完全に覆われているため、スラスタ内部のプラズマ測定(特に光学的な測定)が難しいことも隠れたデメリットです。

自己誘起磁場型のメリットは、「放電電流そのものが磁場を誘起するので重たいコイルが不要」であることです。ホールスラスターでは磁場を発生するコイルが機体重量の7割以上を占めると云われていますが、MPDが究極の軽量性を実現出来るのは自己誘起磁場においてこそであると言えるでしょう。

自己誘起磁場のデメリットは、効率の良い作動をするには少なくともkA級の放電が必要であり、放電電圧と掛け合わせて考えると、必然的に電力レベルは数百kWになってしまうことです。「大電力電気推進として有望な」とはよく言われますが、逆に言えば大電力にならないと効率が悪くて使えない、と云うのも本当のところです.

以下、各タイプのMPDスラスターについて、当研究室での取組みをご紹介します。

A. 同軸自己誘起磁場型

まず、最も基本的な形態である自己誘起磁場同軸型MPDの作動原理について説明します。

・円筒型陽極・中軸陰極の間に数kAの強力なアーク放電を起こす。
・流入してきた推進剤ガスは放電によって電離されプラズマとなる。
・陰極の回りにはアンペールの法則に従い,磁場 Bθ が発生する。
・半径方向内向きの電流 jr と Bθ の相互作用によるローレンツ力によって生成されたプラズマは出口方向に強制排気される。
 

▼▼▼▼▼▼▼▼  MPDスラスタの作動原理▼▼▼▼▼▼▼▼

推進原理

注:Anodeとは     …陽極のこと
  Cathodeとは    …陰極のこと
  Propellantとは   …推進剤(気体)のこと
  Bとは(緑破線) …磁場のこと
  Jとは(赤破線) …放電電流のこと
  Fとは(黒実線) …推力のこと
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B. 自己誘起磁場2次元MPDスラスタ
自己有機磁場潟二次元MPDスラスターは当研究室において、1980年代~1990年代に盛んに研究されたMPDスラスターです。
同軸型MPDスラスターでは観察することのできない電極内部のプラズマの状態を観察するために作成されました。




C. 外部磁場型同軸MPDスラスタ
 
外部磁場印加型同軸MPDスラスターは自己誘起磁場型の大電力を必要とする、という欠点を補うために考案されたMPDスラスターです。電極の形状や基本的な推進原理は自己誘起磁場型MPDスラスターと同様ですが、外部磁場印加型ではコイルを利用して磁場を強化している点が異なります。
外部磁場印加型の中でも同軸型は、電極の外側にソレノイドコイルを設置してあります。このコイルによって放電室内に強い磁場を形成します。
コイルによって形成される磁場は放電電流によって誘起される磁場とは向きが異なるため、その寄与は非常に複雑なものとなっています。

D. 外部磁場型2次元MPDスラスタ
外部磁場型二次元MPDスラスター
外部磁場印加型二次元MPDスラスタの概要

二次元MPD推進原理

二次元MPDスラスタの推進原理


外部磁場印加型2次元MPDスラスターは上図のような形状をしたMPDスラスターです。最も単純には上下に陽極と陰極を持ち、電極間の放電室内に外側からコイルを用いて強い磁場を印加します。
同軸型と異なり、放電電流によって誘起される磁場とコイルの作る磁場の方向が一致するため、外部磁場が推力に与える影響が明らかで、外部磁場によって直接推力を増強できる点が特徴です。
また、同軸型と異なり、磁場の形状に自由度が高く、ある程度の任意の形状の磁場を与えることが可能なため、磁場形状の最適化を行うに適していることも特徴として挙げられます。





4. MPDスラスタ研究の現状


現在、当研究室においては、自己誘起磁場型同軸MPDスラスターと外部磁場印加型二次元MPDスラスターの研究を行っています。
自己誘起磁場型同軸MPDスラスターにおいてOnsetの現象を明らかにする研究と、外部磁場印加型二次元MPDスラスターにおいて動作特性の取得、性能評価を行っています。
 

フォトアルバム

MPDフォトアルバム

自己誘起磁場型矩形MPDを開きます。
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自己誘起磁場型矩形MPD

登録者:students | 2009/10/01(0票)
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外部磁場印加型同軸MPD

登録者:students | 2009/10/01(0票)
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外部磁場印加型2次元MPD

登録者:中田 | 2009/04/17(0票)
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自己誘起磁場型同軸MPD

登録者:中田 | 2009/03/23(1票)